スタッフ

盛田 健彦 (Takehiko MORITA)

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研究分野
Research
エルゴード理論、確率論、力学系
Ergodic theory, probability theory, dynamical system
キーワード
Keywords
測度論的力学系、確率力学系、熱力学形式
Measure-theoretic dynamical system, random dynamical system, thermodynamic formalism
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エルゴード理論(ergodic theory)というのが私の専門分野です。「エルゴード」という言葉はボルツマン(Boltzmann)が1884年に出版した論文の中で導入したもので、ギリシャ語の ergon(仕事量)+hodos(経路)を語源としているのだそうです。微視的な世界の極めて多くの分子の運動の情報をもとに確率論的手法を用いて、温度や圧力といった巨視的な世界の現象を説明することを考えてみましょう。そのためには、10の23乗個以上の分子の位置や速度を長時間観測しそれを平均した値を用いたいところなのですが、そんなことは現実問題としてまず不可能です。
そこで導入されたのが「エルゴード仮説」です。あらっぽく書くと、「各分子の運動に関する物理量についての長時間平均を、空間平均で置き換えることを可能にする」ための根拠となる仮説です。不幸にしてこの仮説は一般には成立しないことが知られています。以上のような背景がある分野名が付いていることもあり、「エルゴード問題」=「与えられた力学系がエルゴード的かどうか、すなわち、長時間平均=空間平均をみたすような力学系であるかどうかを判定する問題」が古くから主要課題の一つとなって来ました。しかし、私が勉強し始めた20世紀後半には、既に様相が一変しており、確率論、統計力学、力学系理論ばかりではなく微分幾何学、位相幾何学、数論、函数解析、情報理論とありとあらゆる数学分野で応用されるような分野となっていました。20世紀を代表する数学者の一人コルモゴロフ(Kolmogorov) は生前、「エルゴード理論は数学諸分野の交差点である」といったとも聞いています。私もそれにあやかって「あなたの専門を一言でいって下さい」と質問されたならば、「時間のような代数系が幾何学的対象である空間に力学系として作用するとき、その挙動を確率論的手法で解析し応用する数学の交差点的分野」のように答えることにしています。