松本佳彦

2018年4月8日更新

数学の研究とは何だろうか

本当は「数学とは何か」という見出しを付けたいところですが、その大きな問いへの答えは保留にしておき、「数学の研究」に話題を絞りたいと思います。数学の研究とはいったい何でしょうか? 数学者と呼ばれる人々は何をしているのでしょう? 以下に少し考えを書いてみます。

また、こういった話題について書かれた本はたくさんあるでしょうけれど、偏った見聞に基づき、G. H. ハーディの古典『ある数学者の弁明』(1940年)と、I. スチュアート『若き数学者への手紙』(2006年)をお薦めします。ハーディの本については松本による勝手な翻訳もあります。バランスを取るために、できれば両方読んでください(特に現在数学を学んでいる学生の人の場合、精神の健康のために、ハーディを読むならスチュアートも読むべきです)。スチュアートの本は、以前日経BP社から出ていた日本語訳が、最近(2015年)になって、ちくま学芸文庫に収録されました。冨永星さんによる翻訳も非常に読みやすいです。

さて、最も直接的な言い方をするなら、数学者の主要な活動とは、新しい数学の定理や理論をつくり、それについての論文を書くことです。もっともほとんどの数学者は同時に教師としても仕事をしていますけれど、それは「数学者」であるための必須の要件ではないので、ここでは除いて考えることにします。

では、「定理や理論をつくって論文を書く」という具体的な活動によって、数学者たちはもっと根本的には何をしているのでしょう? 数学者たちは果たして何をしたいのか? 私の考えによれば、それはこういうことです。

「数学的自然」とはいったい何かと訝る方も多いでしょうが、これは「数学的対象たちが蠢いているところ」のことを言ったつもりです。

数学的対象は、想像上の世界にしかないものではあります。たとえば「直線」と言ったとき、数学では幅のない真っ直ぐな無限に延びる線を意味しますが、そんなものは、現実の物質的世界にはおそらく存在しないと言ってよいでしょう。しかしその一方で、多くの人々にとって、直線のような対象は「人によって記述される以前から、それはどこかに存在していたのだ」という気がするものなのではないでしょうか。この感覚は「直線」をもっと高度な対象に置き換えると薄れてくるかもしれませんが(「ベクトル」はどうか? 「複素数」は?)、慣れの問題という側面も大きくて、長い時間をかけてそれらの概念と一緒に過ごした後には、やはり「それらは人とは無関係にそこに存在しているのだ」という感覚が生じてくるものです。

ほんとうに数学的概念たちは「人とは無関係に」存在しているのか。この問題については、あくまでも冷静に、「数学的対象は、どんなに人と無関係に見えても、やはり人の生み出したものなのだ」と構えるスタンスもあり得ます。しかし私の立場は「やはり数学的概念は人による記述とは無関係に存在している」というほうです。これは少なからぬ数学者が共有していると思われる立場でもあって、「数学的プラトン主義」と呼ばれることもあります。(たくさんの数学者が賛同しているから自分もその立場を採用しているのではなく、どうしてもそれが実感だからそれ以外に選べない、というつもりです。)

そうであるとすれば、「想像上の世界にも何物かが存在し得る」のであり、「何物かが存在し得る」場所を単に「自然」とか「世界」などと呼ぶことにすれば、自然ないし世界とは現実の物質的世界よりも広いのです。この広い世界の中で、数学的対象たちがいる場所を、ここでは「数学的自然」と言い表してみたわけです。

数学の研究の意味とは、世界の広がりについての認識を「数学的自然」の方面において深めることにあるのだと思います。もっと端的に言えば「世界って広いのだ」と感じたいわけです。それはまず、人の心を支え、喜びをもたらします。また、ときには数学的自然とその他のことが結びついて、現実の物質的世界の理解につながったり、産業技術に結びついたりすることもあるわけで、それは素晴らしいことだし、追い求める価値のあることです。

私自身としては、この社会における数学の役割について、考え得る限り開かれた姿勢でいたいと思います。また、上に述べた「数学的自然」のことについて、数学者以外の方々とも(数学者の方々とも)お話ししたいと思っています。もちろんそれ以外のことについても、ですが。

おすすめの本

再び数学を勉強したいという大人の方に向けて、何を薦めるべきかは難しい問題です。じっくりとまともに勉強するための本として、現時点で自分が挙げられるものは

です。前提知識は小学校で学ぶような四則演算程度です(だったはず)。当然のことながら(?)読解力のある小中高校生にもお薦めします。

そのうち調査をして良いリストを作りたいところです。ひとつ気になっているものとして、志賀浩二先生の『中高一貫数学コース』というシリーズがあるのですが、未入手です。

もっと広い意味でのおすすめ本リストも、そのうち作ります。