大学の数学とは?

皆さんは高等学校で、数や数式の計算規則、2次関数や3次関数など多項式で表される関数、指数関数や対数関数、または三角関数など種々の関数の持つ性質やそれらの対応について勉強しました。さらにこれらの関数の微分や積分をあるいは極大値や極小値を求めることを学び、微分や積分の計算が具体的な問題の解を与えることを知ったでしょう。また、三角形や円の諸性質をユークリッド幾何を通して勉強し、それらが平面上のベクトルを取り扱うことで計算によっても証明できることを学んだでしょう。これらのことから数学のもつ論理の厳密さと未知のことがらを引き出す不思議な力をうかがうことができますが、とくに物理を勉強した人たちは自然現象を記述するのに数学が不可欠なものであることを理解できたでしょう。さらに知識の枠がひろまるにつれて、以前は関係ないようにみえたことがらが深くつながっているのに驚いた経験もあることでしょう。

大阪大学数学科のカリキュラムは高等学校のカリキュラムから専門とされる数学への自然な延長となるよう工夫されています。入学後、最初の2年間は、基礎的な数学を学びます。具体的な内容は

などです。この他に、当数学教室独自の講義「実験数学」があります。「実験数学」では、学生は、自分の興味や自分の考えに従って、図形や数式などの数学的対象を、コンピューター上で操作することを学びます。このような体験を通じて、他の講義などで学んだ抽象的理論が生き生きとした形で身についていきます。

1、2年生の間は、これら数学関係の勉強だけでなく、共通教育系科目(人文・社会科学、外国語、情報活用基礎、など)や自然科学系の科目(物理学、化学、宇宙地球科学、生物学など)も同時に学んで幅広い教養や語学力を身につけていきます。

3、4年生では、より高度な数学を勉強します。整数論、代数学、幾何学、トポロジー、微分方程式論、関数解析学、確率論、数理統計学、数理物理学、情報数学などが含まれます。3年生の間は、数学をより広く眺めるように努め、4年生になると、各人の興味を重視するカリキュラムが組まれます。とくに、少人数のグループに分かれて互いのディスカッションを通して研究を行う「セミナー」は数学研究に欠かせないものですが、セミナー形式の授業「課題研究」は、教員の指導のもとに現代数学の新しい結果を学びまた数学の奥深さや面白さに触れる絶好の機会といえます。また、近年解決された「フェルマーの大定理」のような古い問題や現代数学における様々な問題など数学界には多くの興味ある問題や未解決の問題がありますが、「課題研究」はこれらの諸問題に触れる機会も与えてくれることでしょう。

4年生の「課題研究」はセミナー形式の授業の一つですが、これとは別に、1〜3年生に対してもセミナー形式の授業があります。1年生の「数学の楽しみ(基礎セミナー)」と2年生の「数学基礎考究」はセミナー形式の授業です。また、能動的に学ぶ学生を対象とする「オナーセミナー1〜4」が2、3年生に開講されています。さらに3年生には複数の教員によるオムニバス形式の授業「数学への道程と私たち」があります。1〜3年生向けの多くの講義には、「演習」の時間がついていて、若手教員との直接的な討論を通して、基礎的な考え方が身につくよう工夫されています。なお日本アクチュアリ会から派遣された講師による 「保険数学」の講議では実務的な数学を学習します。

数学を対象とするノーベル賞はありませんが、優れた業績をあげた数学者に与えられるフィールズ賞という権威ある賞があり、4年ごとに開催される国際数学者会議で授与されています。日本からはこれまでに小平邦彦博士、広中平祐博士が受賞されさらに1990年に京都で開催された世界数学者会議で森重文博士が受賞されています。また近年、日本数学会で日本数学会賞、日本数学会解析学賞、日本数学会幾何学賞や日本数学会代数学賞あるいは若い研究者を対象とする建部賢弘賞など権威ある賞が与えられるようになり、大阪大学の教員もこれらを受賞しています。最近の数学の発展の中で特徴的な傾向としては、数学が他の自然科学や社会科学と深く関わりを持つようになったことが挙げられます。多くの数学者の目もこの方面に向けられ、それが数学の研究の活力を生み出す源泉の一つにもなっています。1982年からフィールズ賞と並んで情報科学における数学理論を対象にネバンリンナ賞が授賞されるようになったこともその現れです。

なお、大阪大学数学科では、数学に興味をもつ高校生に現代数学の最先端の研究状況を知ってもらうために、「高校生のための公開講座」を毎年開催しています。例年、多数の高校生が参加し、大学における数学研究の本質に触れる貴重な機会になっております。